「資本主義はなぜ自壊したのか」一橋大学名誉教授、中谷巌氏の本を読んだ

 「赤旗」日曜版1月25日号に、一橋大学名誉教授中谷巌氏に聞くという記事が掲載された。中谷巌という名前に、何か思い当たった。確か、10年ほど前、テレビによく出ていた人ではないか。当時、その発言を聞いて、ものすごく反発を感じていたように思い出した。その人が「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社インターナショナル刊)という本を出したというので、早速買って読んでみた。
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 著書の帯に「構造改革の急先鋒であった著者が記す『懺悔の書』」とある。「序章 さらば『グローバル資本主義』」、「第1章 なぜ、私は『転向』したのか」と、衝撃的な見出しが続く。たいへん読みやすい文章で、経済学の素人でも、ぐいぐいと引き込まれ、373ページもある本を一気に読んだ。
 中谷氏は若い頃、アメリカへ留学し、アメリカ人の生活の豊かさに驚き、アメリカで合理的な経済学を学んで、それにすっかり「かぶれ」たそうだ。「貧乏学生」、と本人は言うのだが、その目から見て、アメリカではどんなに忙しくても夕方5時には家に帰り、ガーデニングを楽しんでいたという、ゆとりと豊かさを思い知ったそうだ。私もカナダで残業がないということを知って驚いたのと共通する感想だ。その中谷氏が提唱した路線が小泉内閣の構造改革に活かされている。「民間活力の活用」「小さな政府だ」「規制緩和で市場に任せればうまくいく」という「新自由主義」「市場原理主義」だ。
 ハーバード大学で学んだ近代経済学の専門家が、なぜ「転向」したのか。私は「科学者」としての良心を観る。ノーベル賞を受賞した小林・益川理論は、実験で確かめられて世界に認められた。経済学も、その理論、仮説が現実の検証を受けて証明、発展させられる。中谷氏が、「新自由主義」で突っ走ったアメリカや、日本の現実にてらして、自らの理論を確かめ、問題点を率直に認められたことをすごいことだと思う。竹中平蔵氏のように、未だに改革が足りないからだとか、自民党、民主党の政治家のように市場原理主義をへりくつを並べて弁護していることに比べるとたいへんすごいことだと思う。
 中谷氏は「グローバル資本主義」をモンスターと呼び、貧富の格差の拡大、地球環境破壊などの問題を引き起こし、世界経済を不安定にしたと批判する。モンスターを檻に閉じこめることを提言している。市場を否定するのではなく、規制の必要性を説いておられる。
 この結論は、日本共産党が経済のグローバル化は自然の成り行きで、単純なグローバル経済反対ではなく、国際的な民主的規制を提言していることと一致する。マルクスの資本論から出発して現実社会を唯物論的に研究してきた共産党の結論と、まったく別の理論、近代経済学の立場から現実社会を分析してきた科学者の結論とが一致したことに、私たちの方針にいっそう確信を深めることができた。
 この本でおもしろいと思ったもう一つのことは、日本人とアメリカ人の気質の違いを比較していることである。島国、日本では、縄文人と弥生人が融和し、神道と仏教を融合して、折り合いをつけることが文化となっているが、アメリカでは、白人がインディアンを殲滅、虐殺して国をつくっていった。大陸では、民族の大移動が繰り返され、そのたびに滅ぼし合いが繰り返された歴史がその根っこにあるというのだ。人類は体も小さく、力も弱いので社会的なつながりを大切に生き延びてきた、社会的な存在だというのだ。それがアメリカ流の自己責任、競争で勝つことが基本だというのとは、相容れない。日本のこの良さを活かせと呼びかけている。
 もう一つ興味深いことは、アメリカ流の新自由主義に対比して、キューバとブータンをあげていることである。キューバでは医療保障で国民が安心して暮らしていること、ブータンでは自然環境を守っていることである。また、モンスターを檻に閉じこめる手法として、北欧の取り組みやEUの取り組みを紹介していることである。ここでも、ルールなき資本主義からルールある経済社会をめざす日本共産党と、結論で共通するものを観た。
 一人でも多くの人に読んでもらいたい本だ。

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